「―――これはどういう事なんだ?依頼……なのか?政府の?……こういうのはあまり乗り気になれなくなってきたんだが……」
レオは疑い深い様子で、依頼の概要を閲覧し続ける。
「えぇ、貴方が適任だと思いまして。今回の帝国との一件、貴方の活躍は私も聞き及んでいます。かの帝国神話の英雄……『黒滅の四騎士』と謡われし者と対峙し、脆弱なる雑兵は無惨に散っていった中で、貴方だけは。……貴方はあの場からこうして生還したのですから」
レオは頭を軽く抱えた。
「......いや、そんな記憶は───」
記憶の中身を捻り出すように意識を過去に向けた。そうすると、記憶を呼び覚ますより前に、人の声が脳内に鳴り響く。
『───余を、縛るな』
脳内でその声は、ハッキリとそう告げてきた。
「──うわっ!なっ。なんだ!?」
レオは声をかけられたのかと後ろを振り向くが、そこに人の姿はない。
マギは彼のその行動に眉を顰める。
「……どうかされましたか」
「い、いや。なんでもない」
レオは酷く戸惑った様子でそう答えると、マギは彼に暖かい吐息が感じられる程に顔を近づけ、レオの瞳孔の震えを見つめる。
「……ふむ。記憶の欠落は本当の様ですね。あの場で何があったのかを貴方の言葉から直接伺ってみたかったのですが。仕方ありませんね、しかし……。何か秘密はあるはずです、貴方に。でなければ不可解です。人の身での貴方のその生存力は、あらゆる状況を加味しても……極めて異様だ」
「あぁ……それは……」
レオは自らの不死性を語るか、判断に迷う。
「───まぁ何れにせよ、貴方をこの『楽園』へ送ったという事は、上層部も貴方を特別視しているという事でしょうし、何れは判明する事ではあるのですが……気になりますね。記憶、戻るといいですね」
マギは嬉々としてそう話すと、レオは特には語らずその場を作り笑いで受け流した。
「───その……『楽園』ってのは……なんですか。さっきの場所に居た獣の耳が着いた女の子……?もそんなような事を言っていたが」
「ふふ……『女の子』ねぇ。───貴方はさっき楽し気に会話していたあの方々のこと、どう感じられましたか?」
「……普通の子でないんだろうけど……。というか、見てる感じ明らかに見える限りの全員が普通ではなかったが……」
レオはコタツの周囲を固めていた女性達の身の装いを密かに思い出した。
「そうですね、正しく。彼女たちは普通ではない。『楽園』とは、そんなものたちの為の居場所……とでも言えばいいでしょうか、彼女たちは『人外終局』と呼ばれるカテゴリに属していて、通称『エンプレセス』と。機関ではそう呼ばれています。特に貴方が親し気に話していたあの二人はとんでもない人達でしてね……。西側の旧剣聖『第七人外終局指定、ライヴァラリー・ブラックエマ―シェン・コミュバレン』。かつてはアルデラン連邦卿国の筆頭騎士、語る通りの剣聖としてその名を轟かせてていた人物です。そして貴方が最初に親しくしていた獣耳の女の子『第八人外終局指定、セツギン・ヒメジイネル・ヨリヒメ』。彼女に関しては自ら『楽園』に来られましたのです素性は不明です。まぁ何れも人知の及ばないようなこの世の理から逸脱した存在ですよ。そういえば、貴方のいたレジスタンスの地下要塞も、そのエンプレセス級に壊滅させられたのだと、報告を受けていましたね」
レオはその言葉を聞くと動揺を隠せない様子で目を見開いた。
「……地下要塞が壊滅って、うそだろ?」
「───それもご存知なかったですか。その事については記憶の欠落というよりは、時系列を鑑みると単純に情報のすれ違いだったのかもしれませんね。貴方達がアンビュランス要塞にカチコミにいってる間の事です、レジスタンスの地下要塞は枢爵と提携していたセンチュリオン空軍の爆撃を受け、その際の最中に投下されたたった一人の人物に、壊滅させられていたんです」
マギはそう言うと、手元の端末ディスプレイにレジスタンス地下要塞跡地の画像を表示させた。そこには巨大な大穴を縦に貫かれた見るも無惨な地下要塞が顕となったいた。
「そんな!?こんな事って......!あそこにはアイザックが居たはずだ......!!!アイザックがやられたってのか!?!?……でもあんたの話によれば普通に生きてる……よな」
レオは顎に手をやって落ち着きを取り戻す。
「えぇ、その人物による殺害は発生しなかったようです。全てみねうちで済まされていたとの事で、まぁ話の通り。その規格外っぷりが伺えるでしょう?」
「……全く冗談じゃないぜ、次から次へと……」
レオは深く頭を抱える。
「それはこちらのセリフでもあるんだけど……、まぁ詳しい事はまだ私も分からなくてですね。上層部もアレの出現に関しては想定外だったのでしょうけど……まぁそれはともかくとして」
マギはレオの目線に合わせるように下から覗き込むと、レオは驚くようにして仰け反る。
「どうする?この依頼を引き受けてくれるなら、ここからの自由を司法機関として保証することが出来ますよ。まぁ条件次第では彼女たちのように過ごす事もできますが、悪い話ではないはずです」
レオはマギにそう提示されると、沈黙を保ったまま選択肢を巡らせ、彼の中である二つ程の疑問が浮かび上がる。
「というか、俺は今拘束されているのか?」
そう聞かれたマギは驚いたような顔をする。
「……?そうですけど」
「……驚いたな」
レオは周囲を見渡す。
人物を拘束する場にしてはあまりにも世俗的すぎる風景であると感じる。
「つまり、依頼を受けなければ外には出さないと……?」
「まぁ、貴方に関してはそういう事になるかな?」
「なるほど……、ここは収容施設みたいなものって訳か。さっきの彼女達があの場に留まっているのは、貴方達の命令に従わなかったから。というところか?」
そう言うと、マギは少し笑ってみせる。
「ほう?いい読み筋ですね。ですが、少し勘違いしているようです。ここは収容施設とは少し違います、言うならば……そう、居住区です。しかも、それは別に我々が強要している訳では無い」
「……というと?」
「あの場に住まうのは───彼女達の意思。ということですよ。我々は彼女達に居場所を、とある利害関係に基づいて提供しているだけの関係です。そもそも我々にアレらをどうにかする力はありません。その気になれば彼女たちがここを去るのもそう難しくはないでしょう。ですが、それでもアレらに対して一定のプレッシャーを与える手段を持ち得ています。そういう意味では間接的に居場所をコントロールしているとも言えますね」
マギはそう言うと建物を見上げて更に上空にある施設、デュナミス評議会本庁を見る。
「……なるほど?」
レオは先程のドーム状の部屋における見覚えのある施設、幽閉施設を思い出した。
「あぁ、それともう一つ、肝心な事が気になっているんだが」
「なんですか?どうぞご遠慮なく」
「そもそもなぜ俺にやらせる必要があるんだ?優秀な戦力だったら他にもいるんだろ。この場には」
「……おや、先程の私たちとアレらとやり取りを見てまだそうお考えですか?彼女たちが私の話をまともに聞くと思いますか」
「それもそう……か」
「───それに、この任務は貴方達のような実戦経験が豊富な部隊でないと務まらないと考えているんです。それこそ、並大抵のそこらのイニシエーター部隊じゃ手に余るというもの。それ程の依頼という事です」
「ん......?《《部隊》》?」
レオのその反応に対してマギは首を傾ける、しばらくすると思い出したかのように手を叩く。
「───あぁそうそう、ちなみにレイシア少佐を含め、レイシア隊の方々はこの依頼への参加を承諾していますよ。レオくんの原隊復帰を条件と据えて。この話は、貴方の一存で決まる。後……レフティア大尉?といったかな。彼女には同胞殺しの反逆罪の嫌疑がかけられていてね、本来なら彼女は即刻幽閉されるところなんだけど、貴方たちの帝国争乱時の戦果も考慮されて、君がこの件を承諾すればその件は合わせて不問とすることになっていましたね……さて、どうされますか」
「......何やってんですかレフティアさん......」
レオは溜息を軽くつくと、脳内にレフティアの陽気な笑顔が想起される。
「はぁ......。レイシア隊が絡んでるなら話は早いですよ......。やりますよ、この依頼。依頼内容の詳細が省かれてるようなんで、何をするのかはよく分かりませんけどね、そこはあなたの人選たる慧眼にご期待ということで」
「わお、話が早くて助かります。───とまぁ早速話が決まったところで悪いんですが、あと数日間は『楽園』暮らしになります。司法機関の手続きに時間を要していましてね……今しばらくお待ちください」
マギはそういって元きた道を手招くようにその手を差し出した。
「……分かりましたよ」
「……なんだが満更でもなさそうな様子ですね?」
「いやそんな事ないですって......!」
レオはそう言うと、来た道を重鎧兵士二人に連れられて『楽園』へと戻っていく、そしてその後ろ姿をマギは柔らかい笑みを浮かべながら、手を振って彼を見送った。