―――アンビュランス要塞跡地。
地下の隠し儀式祭壇。
ネクローシス達に捕らえられたレオ・フレイムスは、アーマネス・ネクロウルカンに連れられて、地上へと赴く。
道中、レジスタンス戦闘部の隊員達が彼女達の行く手を何度も阻むが、その儚き脆弱な命はアーマネス・ネクロウルカンによる御業。
『勝敗を制す槍《デアスエラーテ》』によって残酷なまでに容易く葬られていく。
彼女の存在は、完全な依代による顕現でないだけでなく、彼女を満たすだけの負のヘラクロリアムが周囲から不足していた。それ故に彼女は不完全体であり、周囲から彼女の表情を伺うと、どこか息苦しそうな顔つきをしている。
だが、そんな状態でも尚。
彼女は人々を圧倒した。
もはや人の力では、かの帝国神話に謳われる者の歩みを遅らせることままならない。
───やがてそれは地上へ出た。
ネクロウルカンは久方ぶりに浴びる眩い陽光に、己の手をかざした。
徐々にそれに目が慣れていくと、ネクロウルカンは自らを取り囲む様に待ち受けていた、人ならざる異様な存在達に気づく。
「―――そこから動くなレイシス!お前達は完全に包囲されている、無駄な抵抗をする事なく投降せよ!」
薄暗く煙のような物を纏い、実態が希薄そうで異様な雰囲気を放った第三共和国軍の兵士。彼らはネクロウルカンにそう告げる。
その兵士たちの周りには、第十一枢騎士団の面々の姿もあった。
「───なんだ......。そいつは……?彼女は、尋常じゃない……。枢爵クラスを全部合わせても到底及ばないような......まるで暗黒の領域だ」
ダグネス・ザラはネクロウルカンを見ると、その高みに畏敬の念を抱いた。傍にいたベルゴリオは、言葉を失う様子でただ沈黙する。
言葉を放つことが、今この時において生死を分かつかもしれないと感じるからだ。
「───ふーん?あれが裏ボスー?何者なのかは知らないけど、随分偉そうね。とっとと終わらせましょー。……それに、私が前に取り逃がした鎌持ちとかも居るじゃない!!!これを機にあの時の借りも一緒に返させて貰うよー!……てかレオ君もなんかちゃっかり奴らに捕まっちゃってるし……」
ネクローシスによって捕えられているレオの方へと人差し指を伸ばし、調子よくそう言い放つのは、第三共和国軍の空挺部隊と共にやって来ていた、レフティアだ。
「───あぁそうだなレフティア。彼とは久しぶりの再会だが、今は目の戦いに集中するとしようか。……だが、あの時のネクローシスとは数が合わないな……?」
そう言うのはレフティアと同様に、第三共和国空挺部隊と共に訪れていたレイシア隊の隊長、レイシア少佐だ。
そして彼女の周りには、レイシア隊に所属する隊員達の顔ぶれがあった。
「───どんな面して帝国小旅行してやがるんだろうなぁと思ったらよぉー、随分元気そうじゃねぇかレオ。まだ捕まっちまってるみたいだがな」
そう言ったのは重火器を背負った大男のルグベルク・ドナーだ。
「───ったく面倒をかけさせやがってよ」
続けてそう言った男は、対装級スナイパーライフルを背負ったマド・ササキ。そのライフルの一撃は、如何なる覚醒者の障壁も貫くという。その大きな口径を、彼はネクロウルカンへと向けている。
「……それで、あのレイシス達に僕たちは一度負けているわけですけど、何か勝算はあるんですかね......」
フィン・ホンドーは、見るからに怖気付いた様子でそう言った。
「さぁね......。報告に寄ればレジスタンスの攻撃の時点で大抵のレイシス達は倒されているはずよ、最後に……特大級のメインディッシュだけがあるって感じね」
ホノル・リリィもそう言って見せるが、フィンと同様の様子を見せる。
ネクローシスによって肩首捕まれているレオは、この場に駆け付けた第三共和国軍やレイシア隊の面々を見て安堵した。
彼らなら、この状況を打破できる。イニシエーターであるあのレイシア少佐と、レフティアがここにいる。
そう期待を抱くと同時に、彼は地下祭壇での光景がフラッシュバックすると、突如として大きな不安感を抱き始める。
それは、冷静になって考えた事だった。先ほどのネクロウルカンの力を見て、とても通常戦力でどうこうなるとは思えない。
この場のイニシエーターと思わしき人物を数えてみても、レフティアやレイシア少佐を含めて十数人わずかと言ったところだった。
それにダグネス・ザラが率いる枢騎士団を合わせても、ネクロウルカンという圧倒的な存在の前では、如何なる戦力も心もとのない物のように思えて仕方がない。
───ネクロウルカンと彼らとでは、戦いのスケールが異なっていると。
地上を出てしばらくすると、数人のイニシエーターがネクロウルカンを拘束しようと近づいてくる。
レオは近づいてくるイニシエーターに対し大声で警告しようとした。
「───よせ!!!迂闊に近づくな!!!」
レオがそう言い放った瞬間。
そのイニシエーター達は地下祭壇で見た惨状と同様の現象をその身に引き起こした。
どこからか現れた謎の槍、それによって心臓部位を貫かれていく。
彼女に近づいたイニシエーター達は、瞬く間に地に倒れ伏す。
まるでそれが合図でもあったのように、ネクローシス達はレオを後方へ放りだし、それを枢騎士達へ預けると、第三共和国軍に対し牙を剥いた。
次々と薄暗い煙のような物を纏った第三共和国軍空挺兵をなぎ倒していく。
その兵達は、ネクローシスによる一撃を受けると、まるで塵にでもなったかのように姿をたちまちと煙散していく。
どうやらその兵士達の現象は、何れかのネクローシスによって成されている物ではないようだ。
「───ちょ、ちょっと!『レヴェナス・デュプリケート』された空挺兵がどんどんやられていってますよ!?」
フィンがそういうと、レイシア少佐はソレイスを顕現させてそれを構える。
「彼らがここに戻ってくるまでに少し時間がかかるな、私たちもやるぞ!!あの双剣のフルプレート野郎にリベンジといこうか」
レイシア少佐は笑みを浮かべながら双剣のネクローシス、シュベルテン・ハウグステンを見つめる。
彼女の動作に合わせて、レイシア隊の面々も武器を構える。
「レイシア達にあれは任せるわ、私もあの鎌持ちネクローシスに再戦を申し込んでくるから!!!」
レフティアはそう言うと、レイシア隊から単独で離れた。
「じゃあ我々は、あのガントレットを嵌めたネクローシスのお相手でもするか」
レフティアの言葉に続くように、ダグネス・ザラはそう言うと、二本のイレミヨンを引き抜いた。
ネクロウルカンはネクローシス達が戦いに身を投じる中、地形操作でもするかのように器用に空間障壁を操り、ガレキの塊から玉座のような自らの席を作り出した。
かつての枢爵の部下達であった枢騎士達に囲まれながら、彼女はそこに腰を下ろした。
ネクロウルカンは振り返りレオを見ると、ネクロウルカンによって生み出された謎の鎖状の物によって彼を再度拘束する。
その後、彼女の座るすぐ傍まで枢騎士達によって連れていかれると、レオはその場で膝を着かさせられる。
「……奴らが余に遍く死を献上し、蓄えられるのをここで待つ。貴様は、我が取り込む体力を取り戻すまで、依代としてただ、生きよ。───何もする必要は無いのだ、世界は、ただそこにあるのだから。なにも焦る必要は無い……、そう。焦る必要は無いのだ……。不完全では、意味が無い……『ヨハペロネ』は……我々を救ってくださるのか───」
ネクロウルカンは焦燥感にでも駆られるかのように、しばらく言葉を連ねる。それを聞く周りの枢騎士達は、彼女の言葉の羅列を理解することが出来ず、互いに顔を見合わせる。
彼女はそうして右手で頬をつきながら、ネクローシスの働きをただその場で待ったのだ。