───レジスタンスによる撃滅作戦の要塞総攻撃から逃れた枢爵とネクローシス達は、枢爵近辺の者達しか知らない要塞地下シェルターへとその身を寄せていた。
枢爵を筆頭とする指揮系統を地下に緊急移行させ、そこを臨時司令部とした枢爵達は敵の攻撃拠点の捜索を試みようとする。
「えぇい......、どこからじゃ!どこから撃ってきておるのだ!」
枢爵ガイウォンは通信オペレーターに怒声で問う。
「――はっ......、それが付近の接続範囲のレーダーは全て無効化されていて……詳細な状況は不明です。外部との通信チャネルも回線網が不安定で連絡がつきません。ですが……砲撃空間波系をN次元サンプリング、地区情報でシュミレートした結果おおよその攻撃地点は判明。第二区画中央市街地東南方面ポイント752-232地点と推定、勢力不明。共和国からの声明も直前時点までは何も確認されておりません」
「───第二区じゃと......?あそこに何がある......?」
枢爵ガイウォンはそう言って首を傾げる。
「分からんが、防御システムの無効化といい、アンビュランス要塞を陥落させる程の火力兵器や工作員を用意できる組織はそうあるもんでない。共和国関連の線が薄いとすれば、恐らくはどっかの枢騎士団勢力によるクーデターと見るべきだろうな。兵器は前線送りの横流しだろうて、粗方壊滅された事になっておる方面軍のモノだろな」
枢爵ハレクはガイウォンにそう返す。
「───ここを起点に安全保障業務提携を発動する、センチュリオン・ミリタリアに緊急用の直通回線で救援要請じゃ急げ。他、動ける者に片っ端からあたれい」
枢爵ゼーブはそう指示すると、オペレーター達は即座に作業を開始する。
「我らの定例会議を見計らって一気にここを落とすとはな、エイジスシステムを無効化させる用意周到ぶりに加え、第二のエイジスシステムの事まで知っているとなると……、嘆かわしい限りじゃな。奴らの狙いは本格的な国盗りのようじゃ、ハレクの言う通り。これは枢騎士団勢力によるクーデターで間違いないのう……」
枢爵ラゴフォンはハレクの言葉に賛同するようにそう言った。
「となると、奴らは我らを抹殺する事が真の目的だろう。我らの存続が気づかれるのは時間の問題じゃ、他に手を打ってくる前に我らは儀式を早急に執り行なわなければなるまい。依り代が足りぬが……この際致し方あるまい。あのお方に趨勢を図って貰うのだ。我らは地下祭壇へ向かうぞ」
ガイウォンはそう言うと、他の枢爵とネクローシス達を連れ、地下シェルターである臨時司令部を去った後、さらなる地下。
地下大祭壇へと向かった。
―――レジスタンス、地下要塞にて。
枢爵達が丸ごと生き残っている予想外の事態に、メイ・ファンス少将は頭を悩ませていた。
「そんな、彼らは一体どこへ......」
メイ・ファンス少将はうろたえながら視線をアイザック大佐に向ける。
アイザック大佐はそれを受けると一息置いて応える。
「……我々は枢爵の居所を完璧に把握していた。間違いなくこの日、あそこに枢爵達は居たはずですよ。遺体等が見当たらないとなるとぉ……木端微塵になるまで体が吹き飛んだのか……、我々の感知していない空間に潜んでいるのか」
「っいやはや!これは逃げられてますなっ!」
ドクター・メルセデスはそう言うと、妙な雰囲気になる。
「―――メイ司令......、戦闘部が作戦司令室の指示を待っています......」
作戦司令室のオペレーターがメイ・ファンス少将にそう言うが、メイ・ファンス少将は頭を抱えながらしばらく沈黙する。
「......そのまま枢爵の捜索を続行、引き続き残党掃討作戦を継続してください。追って指示を出します」
「―――了解、そのように伝えます」
オペレーター達とメイ・ファンス少将がやり取りを終えた瞬間、傍にいた副司令官であるエクイラは何やらを感じとったかのように表情をはっとさせる。
エクイラには自らに迫る攻撃的な危機に対して、感応者と似たヘラクロリアムの共振や人々の殺意を、遠くからでも感じ取れる性質があった。
「......た、大変です!ここに危機が迫ってます!!!」
「───なんですって!?」
エクイラの言葉にメイ・ファンス少将が反応すると同時に、要塞内に警報が響き渡る。
「―――識別、北西方向よりミリタリア社の航空戦闘団が攻撃編隊で接近中。帝国空軍の爆撃機も確認!要塞領空内に数秒以内に侵入します!」
「航空戦闘団!?このタイミングで......?居場所が知られた……!?」
レジスタンスの予想をはるかに上回った展開に、作戦司令室にいた幹部達は言葉を失っていた。しかし、そんな中でもメイ・ファンス少将は冷静に立ち振る舞い、判断を下す。
「コードRED警報発令、短距離防空システム作動、戦闘機全機発進」
「―――了解、コードRED警報発令中。AE高射砲全門解放、戦闘機全機発進、敵航空機を須らく撃墜せよ」
ミリタリア社の航空戦闘団が領空内に侵入してから、わずか数秒で攻防戦が開始される。
帝国空軍の爆撃機による衝撃波が、作戦司令室にまで響き渡る。
「状況を報告してください」
メイ・ファンス少将はオペレーター達に状況を問う。
「―――第三エリア帯水層、及び付近の上層通路破損。運搬通路壊滅」
「―――同エリアの地対空ランチャーが破壊されました」
「……妙だな、あそこには何もない」
オペレーター達の報告を聞いたアイザック大佐は敵の標的がおかしい事に気づく。
「―――第三エリア、更に数十機の爆撃編隊が接近中」
「えぇ、敵は見えてるものしか狙ってきていない。つまりこちらの正確な情報は向こうには知られていない......。まともにやりあってはこちらが持ちません、全ての高射砲を格納してください。戦闘機には戦域から離脱するように伝えて、ここで爆撃編隊をやり過ごします。こっちは十層の特殊装甲に守られた要塞です、間違ってもここが墜とされる事はない」
メイ・ファンス少将がそう言うと、全ての高射砲は格納された。
こうして地下要塞には爆撃の衝撃波に怯える長い夜が訪れようとしていた。
―――撃滅作戦施行後、アンビュランス要塞にて。
残党掃討作戦を続行するよう命じられた戦闘部は、引き続き枢爵の遺体の捜索、確保と残党掃討を続けていた。
「───お、おい......。あれ、レジスタンスの拠点が……攻撃されてるんじゃないか......!?」
「あぁ......、だが中央エリアのある所からは少し外れてるな」
爆撃で燃え盛る第二区エリア方面を見ていたレジスタンス兵達はそう言った。
「なぁ、隊長さん......拠点は無事なのか?けっこうヤバそうだが」
レオ・フレイムスは第二戦闘部の隊長であるヘレゲレンにそう聞いた。
「地下要塞は十層にも及ぶ特殊装甲に覆われている、大概の攻撃に対しては無類の防御力を誇る。あぁ見えて堅牢な要塞だ、しかしそうは言ってもあれだけの爆撃に晒され続ければ、さすがに長くは持たんだろう。 早く枢爵共を見つけ出さなければな……」
ヘレゲレンがそう言った直後、彼の元に通信が入る。
「―――隊長、見取り図には存在しない地下空間へ通づる入り口をソナーで発見しました。しかし、入り口は頑丈な作りでこちらの装備では突破出来ません」
「なんだと!?分かったすぐそちらに向かう」
ヘレゲレンはすぐさま入り口を見つけたレジスタンス兵達の方へと、周りの枢騎士を連れ走り出す。そしてレオもそれに続いた。
報告にあった入り口に辿り着くと、そこには全戦闘部の枢騎士、レイシスや一般歩兵達が集結し始めていた。
到着したヘレゲレンに向かって、一人のレイシスが戦闘部集団の前へと踏み出る。
その人物は第一戦闘部の隊長であるロベリアであった。
「ヘレゲレン、私達はもうこの崩落した要塞内をどこもかしこも探し尽くした。だが、どこにも枢爵の一人のその一欠けらすら見つけられなかった。後はここだけなんだ......ヘレゲレン......」
ロベリア隊長はヘレゲレン隊長に、緊迫した様子でそう言う。
「それが本当なら、枢爵達は一人残らずこの下で生き残っている可能性が高い......。とすると、枢爵共と真っ向勝負ってわけか......」
「覚悟なら決まっている、ここでやらねば全てが水泡に帰す」
ヘレゲレンの言葉にそう返したのは、第三戦闘部の隊長であるリョージスだ。
「あぁ、もちろんだ。やるぞ......殲滅戦だ」
ヘレゲレンがそう言うと、それを聞いたロベリア隊長は無言で頷き、右手を手前に差し出すとそのまま入り口の方へと向けた。
その後、そのままロベリアが手を翳した方向の入り口を蹴りつけると、まるで丸く切り取られたかのように円状に穴が開けられる。
空間障壁の応用だろう。
穴が開けられた先には、薄暗く灯りが灯されており、地下への階段が延々と続いていた。
ヘレゲレンは穴が開けられたと同時に、真っ先に飛び込んだ。
他の者達もそれに続き、レオもまた共に飛び込んでいった。
しばらく下り続けると、やがて再び扉が現れた。
地上の入り口の時と同様に、ロベリアがその扉を破壊し突入する。
突入した先には作戦司令室のような電子機器の空間が広がっており、そこには第一枢騎士団の腕章をつけたオペレーター達が居た。
その突入に気づいたオペレーター達は、ハンドガンを取り出し突入してきた戦闘部に応戦するも、あっという間に制圧されてしまう。
戦闘部の隊長たちは辺りを見渡すも、枢爵の姿を見つける事は出来なかった。
「ここにも居ないのか......?」
「───いえ隊長、更に地下に続く通路があるようです」
そう言った戦闘部の一般歩兵は、この部屋に置かれていた見取り図な様なものをヘレゲレンに見せる。
「これは......、アンビュランス要塞の地下にこんな地下空間が?これを知るのは枢爵達だけってわけか。間違いなくここに枢爵達はいるはずだ、ここに行くぞ。何人かはここに残り、この部屋で行われた情報を収集して本部に連絡しろ。恐らく先ほど見えた爆撃機の編隊もここから要請されたものだろうからな」
ヘレゲレンはそう言うと、何人かの一般歩兵を残し、他のもの達は地下に存在する更なる謎の大空間へ向かう。
―――アンビュランス要塞、地下儀式祭壇にて。
儀式祭壇の置かれたその大空間はまるで何かの聖堂のように、複雑な文様が刻まれた重厚な柱が祭壇に向けて平行に立ち並ぶ。
その最奥の祭壇には、多くの布に覆われた四つの巨大な棺のような物が置かれ、それを崇めるかのように枢騎士達は整然といくつかの列を成す。
そして枢爵の一人、ガイウォンは黒滅の預言書と呼ばれるその巨本を中央の棺に向けてかざし、何やら不可解な言葉を連ねる。
それと同時に、ネクローシスの一人であるレノーカスはその棺に近づき自ら装備していた大剣をその棺の前で両手を掲げた。
───しかしその瞬間。
「全員動くな!妙な動きをすれば撃つ」
その声がこの地下空間に響き渡る。
それを聞いた枢爵やネクローシス達はその場から振り返ると、儀式祭壇と列を成していた枢騎士達を包囲するように一階とその二階から、戦闘部の枢騎士やレイシス達、一般歩兵が周りを取り囲んでいるのを見た。
彼らは、銃口やソレイスを枢爵達に一斉に向ける。
「───ふはははは!!!貴様たちか、大いなる帝国に刃向かう愚か者たちは!?お前達のやり口には実に恐れ入ったぞぃ、……ふーむ。だが見たとこ、貴様らは枢騎士団ではないようだが……一体誰の手引きなのかね?」
枢爵ハレクは戦闘部にそう問う。
「無駄話をする気はない!そのまま大人しく手を頭の後ろに回して後ろを向け!」
「馬鹿が」
ヘレゲレンの投げかけた言葉に、枢爵ゼーブはそう返す。すると彼の隣に居たレオは突然、ヘレゲレンの前へと出る。
「よぉ、枢爵さん方。俺が誰か分かるか?」
「……おい待てレオ!!」
ヘレゲレンはレオを止めようとするも、全ては遅かった。レオを見た枢爵達は、少し動揺した様子でお互いに顔を見合わせる。
「おぉ……レイシスの子よ。まさか反乱分子に捕えられていたとはのぉ、だが……もう遅いぞレイシスの子よ。儀式はもう始まっておる、貴様の処遇は後に我らが主、黒滅の四騎士の御方が1人。『ネクロウルカン』様がお決めになるだろう……」
枢爵ラゴフォンはそう言った。
「おい!!!そのレイシスの子っていうのは何なんだ!?なぜ俺はお前たちに狙われる!?答えろ!」
レオは必死に問い掛ける。
「……お前は依り代だったのだレイシスの子よ。我らが偉大なる神話の戦士、黒滅の四騎士『アーマネス・ネクロウルカン』様のな。だが全てはもう遅い、こうなっては完全な状態での復活は避けられぬ。───やれい!!!レノーカス!!!」
枢爵ガイウォンがそう言うと、棺の前に立っていたレノーカスはその両手に持っていた大剣を棺に突き刺した。
それを見たヘレゲレンは射撃の号令を出すも、棺から突き刺したと同時に放たれた衝撃波によって戦闘部の部隊は勢いよく後方へ吹き飛ばされ、陣形が崩れる。
───大剣を突き刺したレノーカスは、禍々しい光を放ちながら棺から伸びる黒帯状のものに巻きつかれていき、やがて完全にレノーカスをその帯が蛹のように取り込むと。
レノーカスの形状を変質させていく。
その光景を見たレオは、依り代とはどういうことなのかを直感的に理解した。
その禍々しい光が徐々に落ち着き、レノーカスの形状の変質が終わると、やがて帯の塊の中から、まるでそれを喰い破るかのように荒々しく破られた。
その中から姿を現したそれは、以前のレノーカスの姿とは似ても似つかない全く別の人物像だった。
美しい光沢を放ちながら腰まで緩やかに伸びたこがね色の毛髪と紅い瞳を覗かせ、そして絵画の様に美しく、あまりに端麗な顔立ちは、見る者を揺るがせた。
それに似つかわしくない屈強な鎧と、棺に突き刺された大剣を身に着けたそれは。
───正しく。黒滅の四騎士『アーマネス・ネクロウルカン』の顕現であった。
「はぁ......、我らが神話よ。ネクロウルカンよ……この時をどれほど待ち望んだ事でしょう......」
枢爵ガイウォンがそう言うと、他の枢爵やネクローシス、周りの枢騎士達はただただ、ネクロウルカンに対して静かに膝まづく。
ネクロウルカンの言葉をただ待ち続けた。
そしてその光景にレオや戦闘部は、立ち尽くすばかりだった。
「───余は......、体が、重い......。ここは、どこだ......」
ネクロウルカンは、頭を抑えながらゆっくりと前へと、1歩。足を運び出す。
「ここは地下の儀式───......ぐぁっ‼」
枢爵ガイウォンの言葉を遮り、ネクロウルカンはガイウォンの心臓を右手で突然貫いた。
そのままガイウォンの体を片手で持ち上げると、ガイウォンの体はみるみるうちに萎れていくようだった。
「───足りぬ......、足りぬ......」
ネクロウルカンはそう言いながら、ガイウォンの体をどこかにと投げ捨てる。
「……なっ!?一体なにをっ!?!?」
枢爵ハレクはそう言うと、ソレイスを顕現させその矛先をネクロウルカンに向ける。
「貴方が遺された預言書と話が違うではないか!我らは共に世界を制すもののはずだ!」
ネクロウルカンはハレクの言葉に聞く耳を持つ様子もなく、ネクロウルカンはハレクを見ると、目にも留まらぬ速さで彼へ近づき、左手を用いてハレクの心臓を瞬時に貫いた。
それを見た枢爵ゼーブと、ラゴフォンは即座にソレイスを顕現。ネクロウルカンに対して同時に斬りかかる。
ネクロウルカンはハレクの体から左手を引き抜き、それぞれの二人の枢爵の一撃を素手で受け止めた。
「───なっ!?馬鹿な!!!」
「ぬうぅ......、まだ顕現は不完全なはず......!」
枢爵ゼーブとラゴフォンは、その一撃を容易く手で受け止められた現実に声を唸らせた。
すると、ゼーブとラゴフォンはネクロウルカンから跳躍して距離を取る。
そして、それぞれのソレイスを突然自らの胸に突き刺した。
「「───レナトゥス!!!」」
二人の枢爵は同時にそう言うと、その突き刺した部位から黒い帯状のものが溢れ始め枢爵達の体を包み込み始める。
「……あいつら急に何を!?」
レオがそう言う。
「あれは......、『レナトゥス・コード』の禁術か、初めてお目にかかるな......」
ヘレゲレンは目を見開きながらそう言った。
「レナトゥス・コード......、あの光景は以前見たことがある。アルフォールとかいう奴のとそっくりだ......。だが、これは......まるで禍々しさが違う......」
二人の枢爵の体を包み込んだ黒い帯は、やがて衣服のような形態をとり始め、裾の部位はまるでスカートのように伸びる。
黒い帯に巻かれたその姿は、まるで包帯を巻いた病人のようだ。
二人の枢爵の背の左側からは禍々しい光が弧を描き、まるで片翼の翼のようにエネルギーが放出されている。
その放出された禍々しい光に触れた周りの物質は、見る見るうちにその姿を粒子状に昇華させられていった。
レナトゥスをやり遂げる枢爵の姿を見ても尚、ネクロウルカンはそれに動揺する様子はなかった。
それから彼女は大剣を、その刀身を右肩に預けた。
ゼーブは人知を凌駕する速度で間合いを瞬時に詰め、ネクロウルカンの首を狙いに行く。
だが接近したゼーブは、まるでフレームレートが異なる世界に住まうように、ネクロウルカンによって、容易く首を大剣で跳ね飛ばされてしまった。
一瞬の事だった。
頭部を失ったゼーブの体を左手で掴むと、そのまま何かを吸収されるかのよう、ゼーブの体であったそれもその前と同様に萎れていく。
ラゴフォンは左背から放たれていた禍々しい光を自らの体の前に出し、それを両手で溜めこむかのように構える。
「時空が歪むほどの枢光《《ヘイテンロア》》を喰らうがいぃ!!!!!」
高質量の禍々しい光の集合体がネクロウルカンに向けて放たれた。
しかし、それを避ける様子もなく真っ向からそれと向き合った。
彼女に激しい衝撃波と土煙を撒き散らしながらそれは直撃する。
「えぇぃ......、さすがにやれたじゃろて......」
しかし土煙が晴れると、そこには傷一つ負った様子のないネクロウルカンがそこに立っていた。
「ば、馬鹿な......」
ラゴフォンがそう言った直後。
ネクロウルカンから放たれた枢光によって上半身が瞬時に消し飛び、ラゴフォンの下半身はそのまま地に落ちた。
「な、なんて事だ……あの枢爵を......あんなにいともたやすく葬るなんて......」
第一戦闘部隊長のロベリアは、声を震わせながらそう言う。
「余の良き腕慣らしとなった、感謝するぞ我らが同胞よ」
ネクロウルカンは、先ほど見せていたたどたどしい口調からは一見変わって流暢に話すようになっていた。
「……この時代の枢爵はどこにおるか」
ネクロウルカンは付近の枢騎士達にそう聞いた。するとネクローシスであるテイラー・クアンテラがネクロウルカンの前に出る。
「───ネクロウルカン様。この時代の枢爵は先ほど貴方様が戯れられた四人のレイシスたちで御座います」
そう答えられたネクロウルカンは、心底軽蔑するような視線でかつて枢爵だったもの達を見た。
「……なんだと?この脆弱なもの達が枢爵を務めていたのか。……まぁ良い、預言書通りに事を運ばせておったようだが……、この有様は性急過ぎるな。余がこの時代に身を保持させ続けるには、余りに多くの人間が生き過ぎておる。この地には、負のヘラクロリアムが……枯渇している」
ネクロウルカンはふらふらと歩き始める、列を成した枢騎士達はそれを祝福するように膝を着き頭を垂れ、ネクロウルカンの行く道を示すかのように列を成す。
残ったネクローシス達はそのままネクロウルカンに付き従った。
「奴をこっから先にいかせるなぁぁぁ!撃てぇぇぇ!!!」
ヘレゲレンは祭壇内に響き渡る声量でそう言うと、一斉にネクロウルカンに向けて発砲された。
しかしその攻撃は、ネクロウルカンに届くことはない。全てはネクロウルカンの作り出す障壁によって無意味に終わるからだ。
そしてその質も、物量でどうになる問題を遥かに超えたものだった。
そんな事は枢爵とネクロウルカンの戦いとも呼べない戦いを見て、この場にいるレジスタンス達が分かりきっている事だった。
ネクロウルカンは歩きながら右手を出し、そのまま何かを握りつぶすかのような動作をすると、レオを含む戦闘部全員がもがき苦しみながら地にひれ伏した。
その後、レイシス達を除く人の身の一般歩兵はそのまま地に触れしたまま、再び起き上がることはなかった。
「グぅ......、今。心臓を潰された......」
ヘレゲレンはそう言うと、ソレイスを再び構える。レオもしばらくして血反吐を吐きながら起き上がると、自らの膨らんだ胸部に手を当てた。
「余の糧となるのだ……」
ネクロウルカンはそう言うと、今度は左を出し何かを切りつけるような動作をする。
すると、レオやレイシス達の心臓部が、突然顕現した槍のような物で貫かれる。
それに貫かれたレイシス達は、まるで魂が抜け落ちたかのように体が崩れ落ちていった。
それによって地にひれ伏したレイシス達は、二度とそこから立ち上がることはなかった。
ネクロウルカンは、レジスタンス達の屍を通り過ぎていく。
しかし、誰も立ち上がらぬその中で。
ただ一人立ち上がれるものが居た。
「いってぇな......、これ......。あんた一体どうなってんだよ」
ネクロウルカンは歩みを止め、レオの方を振り返る。
「───貴様、どうなっている。余の『勝敗を制す槍《デアスエラーテ》』を受けてなぜ生きている」
そう言われたレオは、きょとんとした様子で首を傾げる。
「さぁな......そんなのは俺にも分からねぇよ。ただ、今分かってんのはお前をここから地上に出すのは考えうる限りの最悪だってこと......!」
レオは二本のソレイスを構えて、ネクロウルカンと対峙する。
「……ふむ、いや待て。貴様、レイシスの子……なのか?だとしたら惜しいな」
「だーかーら!それはなん───......ってなんだこりゃー!?」
レオの体が鎖のような物で足から巻きつけられ、レオの身動きが封じられた。
「貴様、興味深いな。生命的な死がトリガーになっているタイプか、珍しい。おい、こやつを連れていく」
ネクロウルカンは後方に控えていた者達にそう命じると、ネクローシス達がレオを取り押さえた。
そして、ネクロウルカンとネクローシス達はレオを連れ、レジスタンスによって浄化された地上へと歩み始めた。