───撃滅作戦決行日。
第二区に存在する対アンビュランス地下要塞作戦指令室にて。それぞれのチームからの準備報告がひっきりなしに総司令官に告げられる。
「―――エンジニアチーム物理領域の工作完了。固定レーダー停止コードプログラム確認、外部からのフルアクセスを拒絶、ダミーシステムサーバーへ誘導開始。固定レーダー及びエイジスシステム周辺防御施設、機能停止予定時刻まで残り300秒ジャスト」
「―――全施設員第一種臨戦態勢に移行。三個戦闘部隊、既定位置にて作戦配置完了。第十一枢騎士団、駐屯基地にて待機中。作戦指令室からの指示を待っています」
「―――要塞全設備、全砲撃システム、オールグリーン、全て異常なし。付近の民間人の避難誘導完了、いつでも砲撃システム始動可能」
要塞システム、実行部隊に関する報告をレジスタンス総司令官メイ・ファンス少将は黙々と受けとっている。
作戦指令室にはメイ・ファンス少将の他にアイザック大佐、エクイラ副総司令官。メイン・オルテ中佐、ドクター・メルセデスの姿がそこにあった。
「ついに、始まるのですね......」
この場で誰よりも命を慈しむエクイラは、哀しみに満ちた様子でそう言った。
「えぇ!!!これから沢山の命が失われますぞぉ!!!」
彼女の慈悲満ちた雰囲気とは正反対に、メルセデスは興奮気味にそう言葉を放つ。
「───残酷かつ荒療治な作戦ですが、これらもまた、帝国の因果応報とも言える結末でしょうよ。枢爵の時代に、終止符を」
アイザック大佐はそう言うと、葉巻を灰皿に擦り付けた。
「……戦闘部諸君、武運を……祈る」
メイン・オルテ中佐はそう言うと、信仰の欠片も無いはずの帝国のその人は、この時ばかりは何かを拝むように両手を合して見せた。
「───我々レジスタンスが、発足からこれまでに枢爵の暴虐を許してきたのは、今この時この瞬間に、その全ての一切合切を撃滅する為である。この作戦によって、耐え忍んだ全ての同志達はこの時をもって報われるだろう。革命を、革命を始めるのです。『我らにヨハペロネの加護があらんことを』───全ての対要塞攻撃システム始動開始!全AE火砲、長距離ミサイル展開!目標!!!『アンビュランス要塞』!!!」
メイ・ファンス少将はそう威勢よく言い放った。その言葉に鼓舞された同志達の瞳に、殺意の波動を募らせると、その感情の昂りが戦闘部のレイシス達をより強固な枢騎士へと開花させていく。
メイ・ファンス少将は、アンビュランス要塞が大画面に映し出された観測モニターに向かって、その指をさす。
「エイジスシステムの無力化をもって『アンビュランス要塞撃滅作戦』第二段階を発動」
やがて、要塞を全方位防御するエイジシステムの無効化時刻となった。
「―――エイジスシステム予定無効化時刻、シールドチェック。偵察レーザーを発射」
作戦指令室のオペレーターがそういうと、数秒の間が空く。
「……レーザー有効!エイジスシステムの無効化確認!!!」
「───全砲門解放、砲撃開始!!!」
レジスタンスは、アンビュランス要塞撃滅作戦を開始した。
その頃。アンビュランス要塞では定例枢騎士評議会会議に出席するために、各枢騎士団の団長が集められていた。
枢爵もまたその会議室へと向かっていた。
他の枢爵と共に会議室へ向かう道中、第一枢騎士団長である枢爵ガイウォンは、自らに迫る危機を瞬時に悟った。
そしてその予感は、他の枢爵も同様に感じ取っていた。
「───な、なんじゃぁこれは......これはいかん!!!」
「───この場に危機が迫っておる、何者かが仕掛けてくるぞぉお!!!」
ガイウォンの言葉に第二枢騎士団長、枢爵ハレクはそう言う。
「……膨大に生まれゆく死の柱が見えるわい......、世界が予告しておる。多くの負のエネルギーが、この場に満ちるとな……」
第四枢騎士団長、枢爵ラゴフォンはそう言った。
「マズイのう……ここはもうダメだ!!!直ぐに指揮系統を地下シェルターに緊急移行させるのだ!早く!儀式を早める、ネクローシスも向かわせい!!!」
第三枢騎士団団長、枢爵ゼーブは側近の部下にそう伝えると、枢爵達は瞬時に悟った生命の危機から逃れるべく、他の枢騎士団に危機を知らせる事もせず、我先へと要塞地下シェルターへと避難した。
地下要塞からのAE火砲、長距離ミサイルによる飽和攻撃第一波が始まった。
アンビュランス要塞付近に常駐していたエアー級空中戦艦は、突如大きな飛来音と爆発音と共に要塞上空から墜落していく。
地下要塞からの砲撃が命中しているのだ。
その様子を見た刹那、アンビュランス要塞に居る全ての帝国軍人達は、この地に迫る危機の予兆を知り、一斉に雨降る夜空を見上げるも、幾千に輝く星々とは異なる暖色の輝きに、帝国軍人達は目を見開いた。
その正体をやがて知るも、絶望に浸る暇もなく、アンビュランス要塞は───。
慟哭する砲撃の響きと共に、火の海と化したのだ。
第一波の時点で何百発と砲撃打ち込まれたアンビュランス要塞は、まだ辛うじてその見る影を保っていた。辺り一面には、首都住まいの軍人達にとっては見たこともないような飛び散る遺体の数々、そして彼らが聞いた事もないような響き渡る甲高い女性帝国兵士の悲鳴、アンビュランス要塞は前線さながらの地獄へと変わり果てた。
その中でも人一倍の生命力を誇る枢騎士団長達でさえ、その大半は死に絶えていた。死因は決まって再生が間に合わない事による出血死である。如何に屈強な彼らとて不意に喰らった火砲による体の損壊を癒す手立て等存在しない。
第一波が終わると、生き残った帝国軍人達は負傷兵の移送と臨時司令部の設置を急いだ。
───しかし火の海に住まう彼らの上空には、状況を整理する暇も与えぬ光が再度満ちる。
第二の光の雨達がこの地を火の海から、血の海とせん為に、火砲の光はこの地に再び降り注がれた。
アンビュランス要塞からは少し離れた場所に配置された戦闘部は、第一波の砲撃の様子を見届けていた。レオや戦闘部の枢騎士達は、その余りの光景に言葉を失い、非道さながらの思いからか、涙を流す枢騎士すらその中にはいた。
アンビュランス要塞撃滅作戦は、ただ1人として生存者を許すものでは無い。あの地に御座す全ての生命を刈り取る事によって、レジスタンスの宿願は果たされるのだ。
───かつての同志、かつての友人、恋人。
───その全てと、彼らは決別した。
「これが......、俺達のやっていることなのか......」
「想像以上だな......、これならあの枢爵もさすがにおっちんでるだろうよ」
レオの背後で戦闘部のレイシス達は、そうガヤを放っていた。
───第二波が放たれる数刻前。
「第一波終了、続いて第二派装填開始」
「間髪いれずに、彼らに再生と逃げる隙を与えないでください」
メイ・ファンス少将は、正面に映し出された燃え盛るアンビュランス要塞を見ながら、そう慈悲なき指示を伝える。
「これで枢爵、やりきれるといいんだけどねぇ......」
アイザック大佐は腕を組みながら、メイ・ファンス少将と同じように正面モニターを見つめる。
「いやぁー!いくら枢爵といえど大量のAE火砲をもろに喰らっちゃあ生きてはいないでしょう!点ではなく、面の制圧ですからな!肉片すら残りもしないやもしれませんぞぉ〜!」
ドクター・メルセデスは調子の良い口調でそう言う。
「何事もなくこのまま終われれば良いのですが......」
エクイラがそう言うと、その発言を能天気に感じとっていたアイザックは、エクイラに冷ややか視線を一瞬送った。
───地下要塞からの飽和攻撃によって一通りの波状攻撃を終えると、アンビュランス要塞はかつての立派な建造物群の見る影も無く、防衛設備や通信施設、兵舎や政府施設、内部病棟や軍事関連倉庫。
その全ての一切合切が滅亡した。
その要塞の様子をモニター越しに観測したメイ・ファンス少将は、アンビュランス要塞撃滅作戦を最終段階である第三段階に移行させようとする。
「第三段階、最終フェーズへ移行。残党掃討作戦を開始、戦闘部は第十一枢騎士団と挟撃に当たり、残党及び可能な限り枢爵達の遺体を捜索、確保してください」
メイ・ファンス少将は、そう指示を伝える。
「―――了解、最終フェーズへ移行。各班戦闘部戦闘配置、第十一枢騎士団へ通達、残党掃討作戦開始。枢爵の遺体を可能な限り確保せよ」
「―――こちら戦闘部、了解。作戦行動を開始する」
「―――第十一枢騎士団、こちらも了解した。挟撃にあたる」
第十一枢騎士団団長、ダグネス・ザラは直々に通信を取った。レジスタンス戦闘部とアンビュランス要塞後方に位置する、ダグネスが掌握した駐屯基地。その方面からの挟撃残党掃討作戦が開始される。
レジスタンス三個戦闘部は南東方向より侵攻し、ダグネス率いる第十一枢騎士団は北西方面からアンビュランス要塞残党を挟撃する。
「───ぐうぅ......、誰か......。誰か居らんか......、クソ......」
周りの部下は全滅し、その中で唯一人生き残っていたのは、第七枢騎士団団長のリディックだった。
リディック団長は地面を這いながら、周囲に人影を探す。
すると、見覚えのある姿をした集団を、その瞳にぼやけながらも捕えた。
「おぉ......!助けが来たか......!おいこっちだ!手を貸してくれ出血が酷いのだ......、傷が塞ぎきらん......!皮膜キットを……」
振絞った声でその集団に呼びかけるリディック、その声に気づいたその集団はリディックにすぐさま駆け寄ってくる。
その集団の一人がこちらまで十分に近ずくと、リディックは手を差し伸べた。
しかし、差し伸べた手は突然。
その者の紅いブレードによって切り落とされた。
「ぐぁっ!?……な、なぜ......?」
リディックは目をしっかりと見開くと、そこに立っていたのは第十一枢騎士団団長、ダグネス・ザラ。
彼女は、リディック団長の腕を切り落とした。
「ど、どうしてだあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
声にならない声でそう叫ぶリディック団長。
「すまないリディック殿、貴殿は議会の中でも穏健派だったな。しかし、ヌレイ戦線を崩壊させ、ヒットマンの英雄小隊を死なせた張本人でもあるか。……貴殿の事は別に嫌いではなかったが、何れにせよ。覇権主義思想持つ貴殿等には、これからの我らの時代に生きるにはそぐわない存在だ。良き時代を繋ぐためにも、貴殿等にはここで滅んで頂く」
そう言うとダグネスはイレミヨンをリディック団長の首へと当てる。
「ははっ、そうかい......。この惨状も貴様らの仕業というわけだ……。ふっ、我々は淘汰されるべき存在......ってか」
リディック団長は燃え盛る中、周りの遺体に止めを刺して確認し周るダグネスの部下たちを横目に見ながら、そう言った。
「余程この国を恨んだ連中が、裏で糸を引いているようだな......、ははっ、一歩間違えればダグネス。お前も滅ぼされる側だったのではないかね......?いいなぁ、お前は運が良くて」
リディック団長は息を切らしながらダグネスにそう言った。
「……そうだな」
リディック団長は、ダグネスのその短く返された言葉に笑って返すと、ダグネスはそのままリディック団長の首を刎ね飛ばした。
その後も掃討作戦はしばらく続き、戦闘部も生き残った瀕死の枢騎士団長と対峙していた。
「なぜ貴方達......、祖国を裏切るの......どうしてなの......」
対峙する戦闘部に向かってそう言うのは第十二枢騎士団長、レフィーエ団長だった。そしてその隣には第九枢騎士団長、イデラの姿もあった。
二人とも瀕死の様子で戦闘部と剣を交えようとしていた。
「俺達は別に裏切ってなどいない、先に違えたのはそちらなのだ。レフィーエ団長閣下」
そう言うのは第二戦闘部の隊長、ヘレゲレンだ。
「……過去の栄光を求めた事が、お前達にとっては滑稽だったとも言いたいのかな?」
第九枢騎士団長、イデラ団長はそう言う。
「そうだ。過去の遺産に囚われた枢爵に、貴方方もそれぞれの立場に多少の違いがあろうとしても、最終的な姿勢は一貫している。破滅的帝国主義の思想はここで途絶えさせなければならない、負担を強いられている同志を解放するのだ」
ヘレゲレンがそう言うと、数十人の枢騎士達が顕現させたソレイスで、一斉にレフィーエ団長に切りかかった。
レフィーエ団長の容態対し、比較的軽症かつ余力のあるイデラ団長は、彼女に切りかかる枢騎士を枢光《ヘイテンロア》を放って数人を葬った。だが数人の枢騎士のソレイスがそれを回避すると、レフィーエ団長に刺突の数撃をお見舞する。
その勢いで体勢を屈したレフィーエだったが、ヘレゲレンの隙を見たレフィーエ団長は、彼の首を刈り取ろうと片手を使って急速に立ち上がる。
そうして彼女はソレイスを振りかざしたが、その行動は、その場に駆け付けていたレオのソレイスの一刀によってパリィされる。
「───っへぇ!?あんた何者よ!?」
そう言ってレフィーエ団長は、レオを蹴りで押し離す。
「くっ……いつのまに私の間合いに......、しかも異様なエネルギーの流れね……ソレイスから逆流……?こんなレイシス見た事ないのだけど?」
レフィーエ団長の言葉に、イデラはレオをじっと観察する。
「……いったいなんだこいつは?」
レフィーエ団長とイデラ団長は、レオを異様に警戒し始めた。
「おっと、異様に警戒されてるな……」
レオはそう言うと、二本目の剣状ソレイスを展開させる。そして、そのままイデラ団長の方へと突っ走った。
「お前が何者なのかは知らんが、あまり我々を舐めない事だ」
イデラ団長はそう言うと、向かってくるレオに対して枢光を放つ。
しかし、レオはそれを容易く避けるとそのままイデラの腕を切り落とした。
間合いに入り込まれたイデラはレオを蹴り飛ばし、なんとか距離を放そうとするが、レオが吹き飛ばされたと同時に投擲したソレイスによってイデラは体ごと壁に突き刺ささる。
彼は身動きを封じられた。
その後、レフィーエ団長はレオに対して仕掛け始める。あえて、間合いに入り剣術の質で彼女は勝負しようとするが、レオはその狙いを見破ると、彼女に対して距離を跳躍で瞬時に取る。
するとレオは、空いた手の方からアイザックのソレイスを顕現させた。
そしてそのままレフィーエ団長の方に目掛けてつかさず高出力の銃撃を放つ。
ただでさえ瀕死の身であったレフィーエだったが回避行動を取ろうとする。しかし、いつの間にか彼女の傍に居たレジスタンス側の枢騎士によって、逃げ足をソレイスで切り落とされる。当然回避するための瞬発力も発生せず、彼女はそのまま空振るように空中を舞い、やがて心部を撃ち抜かれた。
レフィーエはそのまま地面に勢いよく倒れ込むと、そのまま絶命した。
「いやはや、見事な事だ。我が枢光も避けられるとなると......今の我々には、打つ手無しとな……如何にレイシスだったといえど……こうなってしまえば非力なものだなまったく」
壁に突き刺されたまま身動きの取れなくなっていたイデラは、レオに向けてそう言った。
「いや、あんた達は確かに強い。あんた達が瀕死の状態じゃなかったら、きっと俺達はこんな風には倒せなかったはずだ。正々堂々と正面から戦って勝てる訳もない、これが。この光景はそのための作戦なんだ.....非力なのは。俺たちの方だからな」
レオは先ほど行われた地下要塞からの飽和攻撃の光景を思い出しながら、そう言った。
「ふっ、過程がどうあれ結果的に我らが敗北したのであれば、それまでの事だ。申し開きのしようもあるまい、大人しく朽ちるとしよう......先の帝国を……民を頼んだぞ……」
イデラ団長はそう言うと、静かに息を引きとった。
戦闘部と第十一枢騎士団の挟撃掃討作戦により、アンビュランス要塞の大半の残存帝国兵は駆逐された。
残すのは、枢爵に関わる者たちとなったが、依然としてその者たちに関する発見報告はもたらされていなかった。
「―――作戦指令室へ通達......、枢爵、及びその近辺部隊と思わしき遺体や装備品が発見できず!!!繰り返します!!!発見できず!!!」
「───現在確認できる限りの遺体の部隊照合を進めていますが、上位枢騎士団所属の兵士が見当たらず……」
「なんですって......」
その通達を受けたメイ・ファンス少将は思わず言葉を見失う。そして地下要塞の作戦指令室には、不穏な雰囲気が漂い始めていた。