───ベルゴリオとレフティアの視線の対立に、レオは腕の素振りで静止を試みようとするも、その組織や存在その物の因縁の関係に彼が踏み込む余地はなかった。
「あぁ。レイシス......、ね。お望みとあらば死なない程度には相手してあげてもいいんだけど、……まずあんたじゃ遊び相手すらならなさそうじゃない???」
彼女はそう言うと、ベルゴリオは血管を浮き立たせる。
「───チッ、なめよってからにぃ!!!」
ベルゴリオは思わず自らの獲物を振り上げ、彼女の間合いを詰めようとする。
「やめるんだベルゴリオ」
ダグネスは直前まで読んでいた本を閉じると、ベルゴリオにソレイスを納めるよう身振で諭す。
「───はっ」
ベルゴリオは短くそう答えると潔くソレイスを納めた、その表情の変わり様は葛藤の様子を見せる事無く清々しさに満ちていた。
「悪かったねイニシエーターのお方、でもいきなりで私たちも驚いているんだ。これまたぶっ飛んだお客が来た、とね?」
ダグネスは席から立ち上がると、そのままレフティアの方へとベルゴリオの前を過ぎて近寄っていく。
「あら?別に良かったのよ?戦いは嫌いじゃないもの」
レフティアは挑発めいた言動でそう言う。
「ふふ、冗談はよしてくれよ。君はソレイスにすら手を掛けていないじゃないか、仮に私たち二人を相手取っても素手で勝てる自信があるんだろう?そんなおっかない態度を取る人にわざわざ戦いを吹っ掛けたくはない。……まぁ当然私としても負ける気は毛頭ないが、お互いに技量を見誤るほど浅はかではないはずだ。その挑発に乗るつもりはないよ」
レフティアはダグネスの発言に対して面食らった様な表情をする。
「あら!驚いたわ、そっちの突っ立ってる奴とは違って、あなたは随分落ち着ているのね。感情バカのレイシス連中の中でもこんな個体が居るなんて驚きよ」
レフティアはまるでレイシスを人個人として扱っていないような態度と言動をあからさまに示す。
「───ふむ、確かに君の言う通り。私たちは負の感情を力の根源としている以上はそう思われててもおかしくはない。自分で言うのもあれだが、その中でも私のようなものは少数派でしょうね」
ダグネスはレフティアと相対しても平然としていた、その様子にレオは多少の安堵を得る。
「へぇ……???本当にすごいと思うわ。でも不思議なもんね、だってこんな。ねぇ?あなた達レイシスのお仲間を何人殺してきたかも分からない存在を前にじっとしてられるなんて、いきなり協力者だって出てきて納得できる方がおかしいって思うのに。まぁでも貴方みたいなその幼さに加えて、その豪勢な礼装と不相応な視座が、貴方の今の立場や度胸を形作ったってことなのかしら?おどろき。少しレイシスというものを見直したわ。貴方方のような組織には勿体ない人材ね」
レフティアはさぞ感心した様子でそう語った。
「イニシエーター様からご褒めの言葉を預かり幸栄の至り。けど残念ながら与太話をしている時間は我らにはないはずだ。そろそろそこの彼の覚醒を急がなければね、私たちにとっても。彼の目的にとってもね」
レフティアはその言葉に素直に頷くと、レオの方を向く。
「そうね、じゃあまずは見せてもらうとしますか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後、ベルゴリオとレオは普段通りの手合わせを行った。しかしその光景は以前と然程代わり映えはなく、一方的にレオが刺殺されては死後再生を繰り返すだけの光景が永遠と繰り返されていた。
「えぇ......、こんな血腥いやり方でずっとやってきたの?どう考えても並よりちょっといいくらいの身体能力の人間がディスパーダの戦士相手に敵うわけないじゃない、あほなの?」
レフティアはレオに厳しい言葉を投げかける。
「いや、そうは言っても何かいい方法があるなら教えてください......」
レオは切実にそう問う。
「知らないわよ、でもこんなのは無茶振りもいいところね。よくこんなのを続けさてるわねここの連中も。───でもレオ君。その死に続けられるメンタルだけは一線級よ」
「ははは……それはどうもです。でもこんなのは慣れるもんじゃないですけど……」
レオはその場に座り込むと、対面していたベルゴリオは矛を納め姿勢正しく立ち戻る。
(くっ、俺はこのまま一撃も浴びせられないままなのか......?アイザックのソレイス、それを俺が使っても所詮は初見殺しの出来損ない。ベルゴリオのような奴を相手取るにはもっと実践的なフィジカルが必要だ。だが、俺の体術や身体能力では、根本的な身体の性能からして到底彼らを上まる事はない、何か。何か手はないのか)
レオは現状の具体的な打開策も見当たらないまま、呆然と時だけが過ぎていった。
「───今日はここまでだな」
ベルゴリオはそういうとレオの前から去って行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――
幽閉施設を後にしたレオは、レフティアと共に自室へと戻っていた。
レフティアが堅いベッドの上に座り、向かい側のイスにレオは座ると先にレオが口を開く。
「……そういえばミル中尉は今どこでなにを?」
「ミルちゃん?彼女なら都市近辺で情報収集中ね、今は色んなコネに手回ししてるとこよ」
「そう、ですか」
レオはどこかソワソワとした様子で、気まずそうに座っている。
「それでねレオ君」
呼びかけられたレオは、それに短く返事をする。
「───アドバイスってわけじゃないんだけど、私たちディスパーダっていうのは人間で言うところの感情の力ってのを拠り所にして、ヘラクロリアムの振る舞いを現出させているの。例えばレイシスならネガヘラクロリアム、イニシエーターならトゥルヘラクロリアムと言った感じでね、正と負の真反対のエネルギーをぶつけ合ってる。そう言う感じのヘラクロリアムの加護を受けて、私たちは様々な力を発現させている。つまりはもしかするとレオ君の今に足りてないのは拠り所とする感情の部分なんじゃないのかなって思うの。なんていうのかな、レオ君の今の強靭なその精神性が反って力の源流と相反しているのかもしれない、現状のレオ君そのものの生命活動はヘラクロリアムに依存してないとは言え、その手に携えるのは正しく私たち覚醒者のもの。ヘラクロリアムをソレイスから自らへの体内へと逆流させてみてれば、もしかするとレオ君の身体との親和性が後天的に発言するかもしれない。でも普通の人間がディスパーダになった例なんて一部を除いて私は見たことないから、何とも言えないけどね」
「なっ、なるほど?」
レオは頭を抱えながらも、レフティアの言葉に必死にしがみつこうとしていた。レオにとっては途方もない道の中での唯一の活路であったからだ。
レフティアはベッドから立ち上がると部屋の玄関の方へと足を運ぶ。
「それじゃ、私はここの司令官さんに纏まった話をしてから、とりあえずここを去るわね。第三共和国軍へリークさせる情報の信頼付けにはイニシエーターの立ち会い、つまり私が必要だから。てことでそれじゃレオ君も頑張ってね。上手くいけば近いうちにまた会うことになるだろうし、その時レオ君がすごーく、なんか強くなってる事に期待してるね」
そういうとレフティアは爽やかな笑顔を見せながらレオの前から去って行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日の幽閉施設にて、レオは以前とは違う顔持ちでこの時を臨んでいた。
ベルゴリオはその事に気づきつつも、特に気にすることもなくいつも通りに顕現させていたソレイスを構える。
「それじゃ、やるぞ」
レオはそういうと、アイザックの銃型のソレイス二丁を両手に顕現させる。その次の瞬間、ベルゴリオは瞬時にレオの間合いに詰める。
ここまでは普段と変わりのない展開だった、しかしレオは依然として両手にソレイスを携えたまま、そのまま棒立ちでベルゴリオの鋭利な一突きを受けいれた。
ベルゴリオはその事に戸惑うもそのまま深くレオの胸を貫く。
「何をしている、遂に自暴自棄になったか」
ベルゴリオがレオの耳元でそう囁くと、レオは薄ら笑いで応える。
「ぐっ……、いーや……」
苦し紛れの表情で、レオは両手のソレイスを自らの体を貫くベルゴリオのソレイスに添えるように触れさせる。
「レフティアさんの言葉から得た発想だ……どうなるかな……」
すると、レオの当てた銃型の二丁のソレイスは、突然ベルゴリオのソレイスと同じ外見へと急速に変質する。
「───これは!?なぜ私のソレイス!どういうことだ!?」
レオは両手に変質させたソレイスで、そのままベルゴリオの片腕を勢いよく切り落とす。
それに為す術なくベルゴリオは大きく後ろに仰け反ると、何とか右足で態勢が崩れるのを踏み耐える。
(俺がアイザックのソレイスを出す度に感じ取っていた、この手にジンジンするような違和感と気持ち悪さ。ひょっとしたらと思ったが……、俺はずっとこいつとどちらに染まるかをせめぎ合っていたのか、レフティアさんの言葉。彼らは感情のエネルギーをトリガーとしてヘラクロリアムに作用させるという、つまりは。俺にはコイツらを受け入れるためのトリガーがなかったんだ、それをする前に常に死んでいたからな。そりゃあ常人が到れる道じゃないわけだ。死を彷彿とさせる様な強力な負のエネルギーがなければ、体内にそれを受け入れることなんて出来ない。だが、死を体感として記憶している俺ならば……できる!!!)
「ぐうぅ......、まさかそんな使い方が出来るとはな......これは言葉通り、一本取られたな」
ベルゴリオは切り落とされた腕を左手で拾うと、そのまま傷口に当てて固定し小煙をあげながら元通りに再生、くっつけさせる。レオの胸に突き残されたベルゴリオのソレイスは、そこから煙になって散るように一度姿を消すと、再びベルゴリオの手元へと顕現する。
「───貴公から、今までなかったヘラクロリアの源流の巡りを感じる。互いのソレイスを通してネガヘラクロリアムを体内に交流させたのか。面白いことを考える」
その様子をみていたダグネスも、思わず目を見張る。
(あれは……体内にヘラクロリアムの生体回路が構築……?)
ダグネスはその瞳からレオの体内に巡り始めたヘラクロリアムを透視する。
(今まで微塵も彼から感じる事のなかった負のエネルギーが、彼の手元のソレイスを発生源として体内に逆流している!?人間の根源的な恐怖、痛感で変化を促進させる為のエネルギーを使い、ベルゴリオのソレイスを起点として体の性質を急速に変質させているのか……?そんな事が、果たして人の身に可能なのか……?)
「……ベルゴリオさんよぉ、改めて手合わせを頼むぜ」
レオは二本の剣のソレイスを構えて足を踏み込み、ベルゴリオと真正面から対峙する。
「はっはっは……あぁ来い、お前に齎された我が負の真髄を私に見せてみろ」
そう言うと、同じタイミングで両者は互いの間合いに踏み込み互いのソレイスを激しく交じり合わせ、空間を嘗てないほどに震撼させるのだった。