───突如として背後から声をかけてきたその佳麗な女性は、鋭い視線をこちらに突き刺してくる。
「───随分楽しそうにしていたのねー、ねぇ?レ・オ・君?」
レオはその見知った人物を視界に捉えると、鼓動が激動する。
再会出来たという喜びと、この状況に対する誤解によって、感情の落差が発生する。
「───えぇと……レフティアさん......?、何故ここに......?」
レフティアは右手で軽く髪を靡かせると、そのままこちらにゆっくりとした歩みで近寄ってくる。
「なぜって......?そうね、君をここで見つけたのは偶々。本当の用事はその後ろの子の組織にあったんだけど、でも。その必要は今無くなったけどね」
レフティアはクライネをじっと見つめるが、肝心のクライネは一言も発さずレフティアを前にそのまま静止していた。
「にしてもレオ君、前とは少し雰囲気変わったかな?なんていうか、少し強くなった?」
レフティアの物理的な距離感の近さに慣れないレオは、レフティアから少し距離を取ると息を落ち着かせる。
「えぇ、まぁ......。色々あって......」
「ふーん、そうなんだ?まぁいいや。とにかく帰るわよレオ君、貴方が無事なら隊のみんなも安心するわ。ミーティアちゃんもここには居ないけど一緒に来てるのよ?貴方を連れ帰るためにね」
レフティアに腕を掴まれ、勢いにそのまま連れ去られてしまいそうな瞬間。
クライネがレオの反対側の腕を掴む。
「───まっ、待ってください!あなたがどこの誰かは存じませんが、彼は我が組織の保護下に置かれています!おいそれと彼をこのまま引き渡すことは出来ません!!!」
レフティアの圧倒的な実力者としての格圧に当てられたクライネは言葉と体を震わせながらも、レフティアに立ちはだかる。
「ふーん、貴方見た目のわりに結構勇敢なのね。でも勘違いしてるわよ、レオ君は元々こちら側、共和国軍独立機動部隊の一員なの。勝手に連れ去っておいて道理の分からない事を言うのはやめてほしいわね」
レフティアがそう言った直後、レオはレフティアの手を優しく振りほどく。
「すまないレフティアさん、今は状況が変わったんだ。俺はまだそっちには戻れない」
「……?どういうことなのよレオ君?」
レフティアは心底怪訝そうな表情で2人の顔を見る。
「確かに俺は攫われたが、でもそれを救い出してくれたのは彼女たちの組織だ。 このままじゃ帰れない、なぜ俺が狙われたのかもわからなきゃ、今もどっても意味がない」
レオはそう言うと、レフティアは頭を抱えてもがき苦しむように唸らせる。
「うーん?んー。ふーん?……まぁそうは言ってもだね、タダでさえ私は共和国を出るのに何人かの同胞の命を奪ってここに来てるから『はいそうですか』って言って引き下がるわけにもいかないのよね。まぁいいわ、元々ここにはレジスタンスの外交ルートをつたって来たわけだし、それならそれで本来の用事を為す事にしようかしらね」
「というと……?レフティアさんは元々何をしに此処へ......?」
「もちろんそれはレオ君の手がかりを掴む為だったんだけど、建前はレジスタンスへ向けた第三共和国からの外交官?って感じかしらね。共和国軍の極秘介入ってネタで、ミリタリア社を通じてミーティアちゃんが上手く関係者を釣ってくれた、私自身は一ミリもレジスタンスなんかに興味ないし、この事を共和国は認知すらしてないけど。まぁ帝国の抵抗勢力なら何か知ってるかもしれないと思ってここに来たんだけど、まさかの当の本人がレジスタンスの協力者になっていたとは思わなくてね」
レフティアがそういうと、レオの腕を掴んでいたクライネは前のめりにレオの前に出る。
「という事は。も、もしかして貴方が例のアンバラルの協力者!?話には聞いてましたが、まさかレオさんの奪還が主な目的だったなんて......」
レフティアは呆れたような様子でため息を吐く。
「まっ、そうね。本当は微塵も貴方たちの事なんで考えていなかったのだけど、でもレオ君の言葉を聞いて確かにそれも一理あるとは思ったわ。なんで帝国、いや恐らくは枢騎士団の思惑なのだろうけど。枢騎士団がレオ君を狙ったのか、それを確かめる必要がありそうと私は今判断した。つまりは、当初の予定通り貴方達の話を聞いてやろうと思ったのよ。レオ君に関してにも詳しい話聞きたいし?」
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レフティアとの意図しない邂逅により、レオとクライネの食事会の予定は急遽変更された。レオはレフティア、クライネと共に再び地下要塞へと出戻るのであった。
レフティアは要塞職員に事前の話があったのか、滞りなく出迎えられると、そのままドクターメルセデスの研究室へとレオ等と共に向かった。
そしてそこで、枢騎士達から追われる理由と考えられるレオの特異的な性質について、メルセデスからレフティアに話された。
「───へっー!まさかレオ君にそーんな力があったなんて驚きねぇ!でも再生力の根源たるヘラクロリアムに依存していないなんて、これは確かに気になるよねぇ……なんでこんなことになってるのか貴方にはわかっているの?えーと、むせるです?博士」
とぼけた様子でレフティアはメルセデスの名前を間違える。
「───ゴホッ、いえ。メルセデスですぞレフティア殿。しかしまぁ、まさか貴方がここに来られるとは思ってもいませんでしたなぁ。敵ながら貴方の戦果はこちら側にまで伝わってくる、例のネクローシスとの戦闘ですら対等に渡り合っていたのだとか?あの黒滅の四騎士の武具を不完全とは言え引きつぐ者たちを相手にしながら」
メルセデスはレフティアに感心する様子でそう言い放つ。
「馬鹿言うんじゃないわよ博士さん?本来の四騎士達はあんな出来損ない達とは比べ物にならないでしょ」
メルセデスは何度か咳払いすると、レフティア達に背を向ける。
「ふむ、ところで先ほどの貴方の問いだが。レオ君の力に関しては、現時点の我々の知見では全くもっての未知数、少なくとも我々の保有するデータでは彼をはかり知ることは出来ない。なにせヘラクロリアムを有さない人生物なんて、まるでピースの欠けたパズルBOXのようなものなのだからね。ただ確かなのは、彼の力は我々人類が科学的に目指すとこの真の不死性に最も近い存在と言えような」
レフティアは軽くうなずくと、レオの方を見ながらメルセデスに同調するような態度を示す。
「……確かにね、私たちディスパーダは言ってしまえば単純に死ににくいってだけで実際は深手を負ったら死ぬ。でもレオ君の場合は如何なるダメージを負っても結果としては死ぬことはない。それが恵まれたことであるのかは別にしてね、どういうエネルギー源に起因しているのかしら?もしかすると回数制限みたいなのもあるのかもしれないけど、それを確認する術は……なさそうだしね」
メルセデスとレフティアが折り入った話を続けると、ノック音が室内に数回響き渡る。しばらくすると、アイザックともう一人の女性。勲章を山程身につけ、アイザックと同齢程と思われる女性が研究室に入ってくる。
その女性の軍服はアイザックと比べても余りに豪勢で、その人物を知らない者ですらその人物が如何なる立場の人間なのか直感で理解する事が出来た。
「───レオさん、それとアンバラルイニシエーターの使者であるレフティアさん。初めまして、私はここレジスタンスの総司令官を務めています。メイ・ファンス少将です、以後お見知りおきを」
艶めかしい気品のある声質がレオに動揺を与えつつも、イメージとはかけ離れたその人物に若干の親近感を覚えていた。
(こんな人がレジスタンスの総司令官だなんて、エクイラさんに件にしろ、想像もつかないなぁ普通)
「どうもー総司令官さん?会って早々悪いんだけど第三共和国の極秘介入ってのは全くのガセネタなのよね!!!本当はそこのレオ君を連れ戻しに来ただけなんだけど、どうやったらすんなり引き渡してくれるのかしら?」
その言葉にメイ・ファンス少将は特に驚く様子もなく、落ち着いた態度でレフティアの問いに答える。
「あら、そうでしたか。確かに極秘介入な割には随分柄の悪い使者だなと思っていたところですよ。強者故の傲慢、余りに滲み出ている。レフティアさん、貴方の場合はそれもまた美徳として成立する実力の持ち主なのでしょうね」
「なーにをゴチャゴチャ言ってるのかわからないけど、あんま訳の分かんない事言うんだったら実力行使もいとわないわよ?」
メイ・ファンス少将とレフティアの生み出す歪んだ空気感に、周りの者は耐え難い緊張感を覚えていた。
特にメルセデスは何かを守るかのように壁に張り付く。
「あのぉ、少将とレフティア殿。お仲が良いのは宜しいがこの研究室でおっぱじめるのだけはご遠慮頂きたいところですな......」
メイ・ファンス少将は笑いを堪えるかのように口元を抑える。
「ふふふ、いや失礼。レフティアさん、貴方は本当に面白い方ですね。まぁとりあえずこの場で争うのは私どもとしても本意ではありません、それに私では逆立ちしたって貴方には敵いっこないものね。隣のアイザックですらそれは難しいかしら?まぁまずはお話をしましょうレフティアさん?私たちの計画と、レオ君の扱いについて。ね?」
メイ・ファンス少将とレフティアのやり取りにアイザックは苦笑しながらその場を密かに過ごした。