ーーー私はレフティアさんの残虐な一面を、片鱗は見れど、真に受けて見るのは初めてのことだった。
レフティアさんが手を掛けた彼ら、国境警備隊の皆さんはわが祖国の戦友達であり、共に国を憂う仲間たちのはずだった。
警備隊総勢十四名の命は、レフティア。たった一人の彼女、その圧倒的かつ生物的強者の手によって、容易く屠られてしまったのだ。
この世界はどこまで行っても、弱者に残酷なのだと改めて感じざるを得なかった。
レフティアさんは、手にかける前に先の警備隊の一人に向かって、密かにとある言葉を投げかけていた。
『あなた、センシティブだったのね』
あの言葉がどういう意味だったのか、当時は分からなかったけど、今思えばある結論に至れることが分かった。
センシティブというのは内面的なものを指していたのではない、レフティアさん言っていたのは、あの男は直観という形で感じ取れる何れかの器官が、より感度良く機能したのだろうということ。
要は、嫌な予感の的中率が高い人間なのだと。レフティアさんが曰く、それはヘラクロリアムが関係しているのだと、以前にも私はそういう事を言われたことがあった。
時にヘラクロリアム粒子は、人間の感情に強く作用し、またその反応を部分的に適合者に匹敵する形で引き起こす。
今回の場合、ヘラクロリアム適合者であるレフティアさんの接近を、かの男はどういう形でまあれ、感知したと言ったところなのだろうか。
いずれにせよ、私にはディスパーダという存在に未だ完全な理解を得られていない。
その感知というものが、どれほどに彼女達にとって根拠を指し示す言葉であるのかを。
特にレフティアさんという人物に対しては、あらゆる疑念が拭えずにいる。伊達に数百年の時を生きているわけではないのだろう、私はこの人の過去を、そしてディスパーダという存在をより知らなければならないと確信した。
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十四名の警備隊を殺害した後、こちらの様子を遠くから窺っていた管制塔室内の職員達は慌てふためいていた。
「た、大変だ......!輸送機の確認しにいった警備隊が皆殺しにされたぞ......、ど、どうする......?」
しがない一般管制官は隣の同僚に判断を促した。
「知らねぇよ!こんな時にぃ!厄介毎は御免だわ、上に連絡だけして後はノータッチだよ、それに仕事がまだまだ山積みだ」
その管制塔職員の男は直ちにターミナルの離陸シーケンスを再開させようとする。
「まぁ、待て。とりあえず上に連絡いれてから判断を仰ごう......」
後ろにいた職人が据え置きの電話機に手を掛ける。
「ーーーえぇ、こちら第四管制室。緊急事態発生、不審な輸送機に向かった警備隊が輸送機から現れた人物によって全滅させられた。HQに対応を請う」
それから数分後に返答が来る。
「ーーーこちら本部、対応を指示する。現時点で追撃部隊の派遣、及びターミナルシークエンス停止は不要。非常事態宣言につき緊急事態条項を適用、離陸した当該する航空機をセーフゾーンにて撃墜する。あとはこちらで引き取る」
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警備隊の死体を道路の端に寄せ集め、ミル中尉とミリタリア社の傭兵達は再び輸送機内に出戻った。
「結構派手にやった気がするんですが……どうやらシークエンスを再開したみたいですね」
「そのようだなぁ、なんだぁ共和国って国は目の前で仲間が死んでても無視ってのが多いのかねぇ?」
ブルズアイは最初に座っていた位置に再び立ち戻ると、ミル中尉と同タイミングで座り込んだ。
「まぁ……、今は軍閥の対立が苛烈に増してて、首を突っ込みたくない人も増えている……国内事情というところですかね」
ミル中尉は、自身から若干の距離を取って機内の地べたに座っているレフティアを見ながら、暗澹の息を吐く。
「んあ、国内事情っつーのはあれだよな?国内紛争がヒドイって話の奴だろん?権威を持て余した老人共が暴走してるだのなんだのってな、俺ら傭兵はよくそれに振り回されてるしなぁ。なるほどな、そう考えるとアイツらの塩対応も納得がいくってわけだ?がっはっは!」
ブルズアイは呆れる様子もなく大声で笑う。
「えぇ、まぁ概ねその通りですよね。このご時世の中ではいつどこで権力者が絡んでくるのかわかりませんからね、下手なことをすれば地域社会的に抹殺されると。ある程度のポジションに就いた者なら誰でも保守的にもなりますよ、これはあくまで社会的に正しい行為でしかない。こんな状況が共和国家創立以来数百年も続いている......、その結果が、かの『卿国』を産みだしたきっかけでもあるわけですから。強大な共和国連邦制度であるにも関わらず実効的な自治権を握りしめ、腐敗した軍部が......っと、すみません余計なこと喋り過ぎました。つい......」
思わず関心事に口が回ってしまったミル中尉は、職務に就いてから密かに抱いていた思いが彼の前で溢れ出した。ミル中尉が強く願う理想の世界と、正義感から作り出された想いが露呈する。
「がっはっは!なーに、随分面白い話をしてくれるじゃねぇーか嬢ちゃん、なぁそうだなぁ。正直驚いたぜ、まだ嬢ちゃんみたいな人間がちゃーんと共和国軍にもいるんだなってな!俺たちならず者や国に捨てられた連中にはそんなこと、なーんも分からんが、国が好き、いや。祖国が好きだってのはよく伝わってくる。さて、そろそろ離陸だろうよ、何かに座るか捕まっとけぃ」
ブルズアイはその場から立ち上がると、レフティアに軽い会釈をしながら前を通り、そのまま操縦室の方へと向かって行った。
「はぁ、ブルズアイさんみたいな人も、意外と世の中には居るんだなぁー。私って、本当に外のこと何も知らない...」
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前方の軍用機が全て離陸を終え、順番が回り輸送機はいよいよ離陸準備に差し掛かっていた。
パイロット達は準備に取り掛かる。
「よーし、上がるぞー。管制塔から何か特別な指示は来てるかー?」
操縦室に入ったブルズアイは、パイロット達に指示を出し始める。
「いえ、今のところは通常のシークエンスを正常に続行中。このまま手順に従い離陸可能です」
「よーし、スロットルを入れて滑走路に侵入しろ」
輸送機は道路を進行し開けた屋外へ出ると、航空機を射出するためのカタパルトが姿を現し、輸送機はカタパルト上まで移動した。
すると、突如通信機から管制塔の機会音声のアナウンスが流れ始める。
「機体のカタパルトへの接続を確認---機体認証開始---センチュリオン・ミリタリアCM-1011輸送機を承認---カタパルトシステム正常---推力正常----進路に障害物はありません、発進シークエンスを開始してください」
「こちらCM-1011、発進を開始する」
パイロットが管制塔のアナウンスに応答すると、機体は急速に発進する。出口付近に差し掛かると、輸送機は正常に離陸した。
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「こちら在第七中央ステーション第一航空防衛隊より本部へ伝達、指令概要にあった当該する航空機体がステーションを離陸した。これより指令に従い撃墜に向かう、セーフゾーンにて撃墜するため対領空侵犯措置を適用し、当機はカタパルトの優先権を得たい。オーバー」
「ーーーこちら本部、要請を承認する」
指令を受けた二機の戦闘機が、ステーションから緊急発進していく。それをステーションの傍らから覗き見ていた一人の人物『レイシア少佐』の姿がそこにはあった。
「やはり飛んでしまったか、友軍機を落とすのは心苦しいが、仕方あるまい。私なりにレフティア達をサポートしてやるか」
レイシア少佐は手首に装着されたウェアラブルデバイスを、顔付近に持ち上げるとデバイスが起動する。
「レイシア第3プロトコル、コード『ゼロ・ミッション』を発令。当該ゼノフレームをオートパイロットモードで始動運転開始。凍結解除、目標を思念選定、反映後直ちに撃墜」
「ーーー上位検査項目を省略、プロトコル緊急承認」
レイシア少佐の通信の掛け声と共に、ステーションの倉庫内に保管されていた、長らく運用されることのなかった大金食い虫。埃被りの旧時代の産物、嘗て莫大な運用コストを理由に凍結されていた戦略決戦兵器ゼノフレーム。それは禍々しい超機関エンジン音と共に、蒸気に塗れながら起動した。
その起動に伴い倉庫のハッチが徐々に自動展開、一体のゼノフレームは倉庫の外へと出る。
それを目撃した第一管制室は、そのあまりの事態に動揺する。
「......おい!?なんでだ!保管庫からぜ、ゼノフレームが出てきているぞ!!!なにをしている!!!すぐに戻せ!!!」
第一管制塔の向かい側に、鑑賞目的で作られていたゼノフレーム保管庫から、起動したゼノフレームが自前の武装を展開しながら姿を現す。
ゼノフレームは元々対空戦闘に特化している機動兵器だ。これに搭載されている二門のAE高射砲は、出撃したばかりの二機の戦闘機を既に自動照準で直ちに捉えていた。
照準システムがロックオンを完了すると、ゼノフレームは間髪入れずに高射砲を戦闘機に目掛けて連続で射撃する。
ステーションから離れたばかりの二機の戦闘機達は、背後に気を取られる暇もなく藻屑となって空へ散って逝った。
「……80年前に仕込んでいた起動プロトコルは何とか起動……したか。一先ずはこれで、見えざる力が彼女達に及ぶことを阻止したが……やはりこの一件……、共和国軍内部に協力者がいるとみるか。レオ、君は一体何に目をつけられているんだ」