ーーーレフティアは、こちらに近寄る警備隊に対して、轟くような第一声を浴びせた。その声は瞬く間に周囲の人間の耳を震わせる。
「先に名乗っておくけど、私はレフティア。イニシエーターよ?わーざわざ!こんなとこであたし達の足を止めさせるなんて、いい度胸してるじゃないあなた達、それなりの理由がなければ~?あなた達をまとめて懲戒免職に処すこともできるのよ???」
レフティアはその挑発めいた口調で、国境警備隊に言葉を投げかける。それを聞いた警備隊達は一瞬戸惑い、お互いの顔を見合わせる仕草をみせるも、警備隊達は直ちに冷静さを取り戻した。
すると、警備隊長と思わしき人影。周りとは装備や服装の異なる人物が隊列の一歩手前に現れる。
「えぇ、存じておりますレフティア大尉。しかしお言葉ではありますが、なぜこのような民間の貨物機に貴女のような方が搭乗して居られるのでしょう?この貨物機の行く先は、出航リストでは帝国本土に向かうことになっておりますね。しかしレフティア殿、独立機動部隊総会議の決定を、いやはやお忘れではありませんかな?そう、確か貴女はレイシア隊とやらのご所属であったはずですねぇ、臨時解体中の今となっては、評議会の意向を無視して勝手な行動はできますまい?」
レフティアは言葉を詰まらせるが思慮を巡らせる。
「いいえ、私は特務で帝国に向かうのよ。ましてや部隊とは関係ないわ、いいかしら?この特務は急用を要する案件です、直ちにこの機体に対する拘束状態を解除しなさい。これは上官命令よ?」
しかしそのレフティアの言葉を持ってしても、警備隊は銃口を向けたままだ。
「ふむ、いけませんなぁレフティア大尉。いくら上官命令といえど、我々も仕事ですので」
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一方、ミル中尉とブルズアイはレフティアを貨物室の中から静観していた。
「これはマズいことになりましたね......、あのレフティアさんの前でも堂々としてるし、一体この輸送機の何を悟られたのでしょうか?」
ミル中尉は震え声でうずくまるような姿勢を取っていた。
「あーん?というか何でもいいがこれって俺たち面倒ごとに巻き込まれてるじゃねーかよ、約束と違うじゃねぇか!がっはっは!」
「ははっ、全く冗談じゃねぇよな......」
ブルズアイの笑い声に、同じく静観していたパイロット二名は思わず苦笑する。
「と、とにかく!ここはレフティアさんが上手く切り抜けてくれるはずです。信じましょう」
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包囲網を形成していた警備隊は、武器を向けながらレフティアへ徐々に距離を詰めていく。
彼らには、元からレフティアの話を聞く気など更々なかったようだ。
(まずったわねぇ......もう......こればっかりは仕方ないか......)
数人の警備隊はレフティアをすり抜け、輸送機内へと入り込んでいく。やがて警備隊は無抵抗のミル中尉とミリタリア社のパイロット二名、護衛監視役のブルズアイを機外に連れ出し、拘束した。
「レフティアさん......」
ミル中尉がレフティアに助けを求めるような音色で、彼女の名を呼んだ。
やがて残りの警備隊はレフティアを包囲し、拘束しようとする。
すると、突如。レフティアは己のソレイスを発現させた。それを見る周りの者たちは、その余りに美しい刀剣の有り様、その一瞬の間。見惚れていた。近接格闘戦闘を主体とするような武器が、彼方の昔に人間の世界から廃れた頃から、その美しさや眩しさに、今となっては慣れた者は少なかった。
「ごめんなさいね部隊の皆さん、恨むなら。あなた達の上司を恨んでね」
ソレイスを携えたレフティアは、均一な弧を描くように、その場で体をくねらせる。
気づけば、白く輝きを放っていたはずのソレイスは、深紅に染まり、レフティアの周りには、無惨に儚く散りゆくように数人の警備隊が地に伏せていった。
「な、なっ......!?しょっ、正気かッ!貴様!!!」
先ほどからレフティアと問答を繰り返していた国境警備隊隊長は、このあまりの事態に膝をふるわせて、腰に携帯していた拳銃をレフティアに突き出すように向ける。
「き、貴様ッ!気は確かなのか!!!各員、対ディスパーダ戦闘用意!!!」
その掛け声が放たれると、ミル中尉等を拘束していた警備隊はその場を離れ、前方の警備隊と合流。
警備隊はレフティアに対し一定間隔で距離を取りながら陣形を組み始める。
「対ディスパーダ戦闘......?あら、貴方方。ディスパーダとの戦闘経験はないのかしら」
警備隊は輸送機を背にするレフティアを、完全包囲すると隊長と思わしき男の指示を待っていた。
「各員、レフティア大尉を無力化せよ!!!」
警備隊は装備していたAEライフルでレフティアに一斉射撃を開始する。その瞬間、レフティアはわずか一歩で中央位置の警備隊員の間合いに入り込む。
レフティアは手にしていたソレイスを振り下ろし、後方の数人を巻き込みながら同時に五人の胴体を斬り下ろす。
側方に三名ずついた警備隊も続けて射撃するが、レフティアの人知の限界を超えた移動速度に照準が追い付かない。
また一人、また一人、警備員はバラバラに切り刻まれていく。
気づけば、輸送機の入り口には血の溜池が出来上がっていた。
壊滅した警備部隊。その中でも、特に事情を知っていそうな、先ほどの問答を繰り返した隊長と思わしき人物を、レフティアはみねうちで仕留めていた。
「……さて、なんでウチらのとこわざわざ目に付けてやってきたのか、説明してもらおうかしら」
レフティアはその男の髪を掴み、顔を引き寄せると、感情を剥き出しにしたような形相で男を尋問する。
「邪魔をした以上は、どっちみち生かさないけど、とっとと答えてくれるなら楽に殺してあげるわよ?」
男は口から血を吹き出すなり、まともに喋れるような状態ではないようだった。
「あら?手加減ミスったかしら?喋れないなら......」
「まっ、マテ......」
レフティアがソレイスを振り下ろそうとした瞬間、男は口を開く。
「わ、我々は......誰からの指示もうけていない......、本当、だ......。私は、ただ職務を遂行しただけだ......、保安検査の完全性をタカメルために......、私らの隊は抜き打ちでよく輸送機の検査を、していたんだ......その一環で軍用機に不自然に紛れ込む民間機を見つけたんだ......、そこで出航リストに干渉し離陸時間を遅らせた......、それだけだ......!ホントウに......」
男は全ての力を捻りだしたかのように経緯を語った。
「ふーん、軍用機のレーンに合流させたのは貴方たちじゃないの? 」
「なっ……ナン…の…ことだ……?」
「……そう、それ以上答えられないなら……」
レフティアは再びソレイスを振り上げる。
「マッ!まってくれぇ!私には娘がいるんだ......!み、見逃してくれぇ......!たのむぅ!!!」
男性にしては甲高い声で、その男は最期を感じたのか、必死に命乞いを繰り返す。
「レフティアさん!いくらなんでもやりすぎです!その人も、他の警備の人たちも。同じ共和国の同胞でしょう!!!同じ国を憂う味方のはずです......!その人の命、本当に奪わなければだめですか?」
ミル中尉は、その男の情を買ってしまったのだ。人として、生まれもって持つ、当たり前の感情、そして慈悲。
しかし、それをレフティアに求めるには、余りにも無謀で無知な訴えであった。
ミル中尉の言葉に安堵したのか、先ほどまで喚いていたその男は急に静まり返る。
レフティアは、ミル中尉の言葉を聞き届けると振り上げていたソレイスを静かに下ろした。
「レフティアさん......!」
ミル中尉は、レフティアの矛を納めることが出来たのだと、わずかながらの安心感と感嘆な思いを一瞬の間だけ抱いていた。
すると、ソレイスを納めたレフティアはミル中尉の前に聳え立つかのように立つ。
「ミルちゃん?そんな甘い考えじゃ、大事な人や仲間なんて、すぐ死ぬのよ。特に貴方みたいな人間は」
そう言ってミル中尉の目の前から去っていくレフティアの影から、先程の男の体が伺えた。
レフティアが完全に目の前から消え去り、ミル中尉を背後に彼女が輸送機に向かっていくと、ミル中尉の目の前に広がったその光景の残忍さに、腰を地面に落としてしまった。
「どう、して......」
ミル中尉が涙ぐんだ視線の先には。
その男の頭部が無くなった肉体が、綺麗に地に朽ちていたのだった。