「―――今回は、まぁ随分と無理な手に出ましたね、たぁいさ」
時計台の一件を終えたアイザックとクライネは隠れ蓑であるカフェテリアに戻ると、レオを地下にある救護室に運び込み、彼に最低限の手当てを施した。その後、すぐに声を掛けられる位置で、しばらく様子を伺っていた。
「まぁねー、ていうか。ずっと不機嫌だね〜クライネちゃん」
アイザックは後悔にも似たような表情でクライネを見る。
「えぇ、まぁ」
「あはは~こりゃしばらくは気軽に話しかけられそうにないねぇ」
クライネは軽蔑の眼差しで、アイザックの近くにあったカップに自家製のコーヒーを差し入れる。
「ありがとうねぇクライネちゃん、付き合ってくれてさぁー、まっ、とりあえず状況を整理するとしようかね」
アイザックはそういうと腕に装着されていた端末から、付近の情報がまとまったロードマップのホログラフィックを空間に展開する。
「ーーーうーん、やっぱ当初の想定していたよりかなり深刻なことになってそうなんだよねぇ。一体この"特異点"に関する計画にどこまでの人間が関わっているのか、我々はあまり把握出来ていない。便宜上、そう呼称しているのか。それとも本気でそういう扱いをしているのか。それすら分からない。例のダグネス・ザラ。隊長格のレイシスロード階級の人達にすら、彼の存在は知らされていないみたいだね、あくまでネクローシスに関することまでなのかね」
アイザックは腕を組み、クライネに手振りで意見を求める素振りをする。
「……ですねぇ、現在彼を指すコードネームには特異点、座標、印。などが確認されていますが、それぞれに勢力が異なっています。ひとつはレイシス教会の中枢、『枢爵』それと指定ファミリアのエターヴですか。彼らに直接的な目的があるとは思えませんし、裏には恐らく彼らを実効支配できる別の組織が関わっているのでしょうけど、そこまでは分かりませんよね。それに最後は......」
「共和国軍。いや、イニシエーター協会か。レオを意図的にこちら側に接触させた張本人達だ。エターヴと枢爵はそれぞれ手は組んでいるようだが……」
クライネは怪訝そうな表情で、そのワードに反応する。
「まさかイニシエーターとレイシスが......、彼らが裏で手を取り合っていると?」
「いやぁ、流石にそれだけはないと思いたいがね。とすると我々の敵は世界そのものだと言うことになる。まぁそれと、帝国と共和国の開戦したタイミングに合わせて事は動き出し始めた、そもそもネクローシス共がピンポイントで、全員レオの居る前線に出動しているというのも変な話だ。建前上は、強引に推し進めた上位部隊の創設、その批判の緩和剤として新部隊の初披露、実戦投入ということだが、だとしても不自然過ぎるだろう……。枢爵どもは何をしたがっているんだかね、これに関わってる勢力が多すぎて真意がみえてこんのよ」
アイザックは己に何度か問いかけると、クライネが何かを思い出すかのように口を開く。
「ーーーちょっと早いですが……レジスタンスに戻りましょう大佐。計画を早めるべきではないですか、こうして彼の特異性とやらも垣間見えたことです、彼を使って中枢が何をしたいのかは分かりませんが、きっと恐ろしいことです。明日にでもこの国は枢爵に滅ぼされてしまうかもしれませんよ」
クライネの提案にアイザックは驚きを露わにするが、一理あると見るや顎に手を当て思案を巡らせた。
「ふむ......、あまり急かすのも良くはないとは思うがな......。彼が今こちらの手にある以上は大きくはでてこないと思うがね?どうやら奴らは目立ちたくないようだしなぁ。それにこれで奴らの動きが大きくなるようなら、それこそ奴らにとってレオの立ち位置というもんが知れるわけだしな」
アイザックは具体的な知見をクライネに問う。
「確かにそうですが、中枢は既にネクローシスという未知の戦力を手にしています。こうしている今も奴らは着々と精鋭を従えて準備を円滑に整えているはず。その最後のパーツにレオさんが必要なのだとしたら、もはやこうしてもいられませんよ、いま本気で取り返しに来られたら我々だけではどうしようもありません」
自体を憂慮し重く受け止めているクライネは、言動に不安を漏らしていた。
「ふむ、それはあるかもねぇ……。よし、計画を早めちゃおうかクライネちゃん。レオに関してもこのままここで保護しておくわけにもいかないしねぇ」
「はい、大佐」
2人の会話が区切りよく終えると、ベットの上に横たわっていたレオの右手がピクリと微動する。
「ここは……」
状況を理解出来ていないレオはベットの上であたふたと周りを見渡し、アイザックとクライネの存在を確認すると辺りを模索する。
「俺は、たしか……レイシスの少女と戦って……それで……」
気を失う前の記憶を着々と思い出したレオは、自分の体をみて異様な状態であることに気づくと、クライネ達に向けて視線を飛ばした。
「ーーーあの傷は、致命傷のはずだった……!まず生きていることそのものがおかしい……、あの致命傷をどうやって……?」
クライネはレオがこちらに視線を飛ばし、状況に誤解を覚えていることを察すると、レオの傍に近寄った。
「レオさん……、あなたにまず言わなければならない事と、謝罪をすべき事が幾つか私達にはあります。まずその傷ですが、私が施したものは応急処置程度のもの、本来致命傷で会った損傷の殆どは、臓器を始めレオさん自身が修復してしまったようなんです」
クライネが告げた事実に、レオは混迷するが、やがて今まで自分が歩んできた、あまりに都合のいい、上手く行き過ぎていた傭兵人生に照らし合わせていると、直ぐに冷静さを取り戻していった。
「あぁ……、ははっ、なるほどな……、通りでねぇ……」
その言葉を聞いたクライネは疑問の表情を浮かべる。
「というと、やはり今までに何か心当たりが?その特別な回復力について」
クライネの問に、レオは静かに頷いた。
「今まで何回か、そういう事はあったんだ、よくあんな状況で俺は生き残れてたなぁってな、あん時の俺には、眠るように記憶がなくて、ちっとも気づかなかった事だが、今となっては全てが繋がったような気分だよ……」
「具体的にはどんな?」
クライネは、レオの未知の能力の真髄を鑑みえると見るや、調子の上がった様子でレオに話の続きを促そうとするが、レオは『その前に』と言いながらベットから起き上がる。
「俺がそれを語る前に、まずはクライネさん、アイザックのおっさん。あんた達の全てを俺は知りたい、それを教えてくれるなら俺はあんた達に全面協力するぜ」
アイザックとクライネは、その突然の提案に困惑する様子を見せ、2人が目線を交した。
「それは願ってもない話だが、けどいいのか?薄々勘づいてるとは思うが……」
「……あぁ。もう今更だよ、俺を嵌めたってわけだろ?だが、そんな事はもういい。俺の中では負ったリスクよりも知れた情報が勝ったんだ、俺みたいな奴がなぜ狙われているかね。この、変にタフなこの体が、やつらの目当てなんだろ」
レオは鋭利な眼光をアイザックに突きつける。
「ほう、やけに踏ん切りがいいな。自分で言うのもアレだけどよ、よく信用しようと思えるな。おまえを試す……いや、殺そうと画策した連中をよ?」
「信用……か、それは少し違うな。敵の敵は味方、ってやつだ。俺の記憶が正しけりゃ、あの少女は俺を本気で殺そうとしていた。しかも並ならぬ実力者だ、そんなやつを前にして、のうのうとここまで連れて帰れるとは思えない。要するに、あんた達もこの国の中で、孤軍さながら、帝国を相手取ってるんだろ?勇ましいことじゃないか。俺はその勇ましさに同調する。そういうことだよ、アイザック」
アイザックはその言葉に感銘した様子で目を見開いた。
「……ふむ、ガンギマリってわけか。ちょうど君のような人材を、我々。『レジスタンス』は追い求めていたところだよ。その覚悟に私は敬意を示す。我々、レジスタンスの全てを、これから君に開示しよう」